渡辺茂夫のヴァイオリン
この人の奏でる音について一度は書いてみたいと思いながら、どうまとめたらいいのかと言う目処が立たないまま時間が経ってしまいました。
最近思い出して聞いてみたら、初めて聞いた時のようにすっかり渡辺茂夫の音に引き込まれてしまいました。グイグイとヴァイオリンの音の世界に私を引き込んでゆくのです。しかもその音はほぼ七十年も前の、彼が十歳の頃から十六歳の頃までのいくつかの録音からしか聴けませんが、録音技術、音響的なことは忘れてしまうほど音楽としての音に吹き込まれた命のほどがとてつもなく強烈で、渡辺茂夫の演奏を聴いているときはそのこと以外のことが私の前から消えてしまうほどです。
たくさんの優れたヴァイオリン奏者がいます。音が綺麗だ、生きている、そんなところから始まって演奏家を褒める言葉はいくつもあると思います。渡辺茂夫の音はどんなカテゴリーからもはみ出しているものです。ヴァイオリンってこんな楽器だったのかと知らされた思いがします。
彼はヴァイオリンを弾いている、歌うように弾いているというレベルのものではなく、ヴァイオリンをヴァイオリンたらしめているのです。それ以外に言いようがないのです。とにかく一度聞いてみてください。
私が彼の演奏にとても共鳴するのは、彼の音から日本語が聞こえてくるからなのです。日本語を喋る人間からしか生まれない音だと思って聞いています。ここまで日本語に近い音は、ヴァイオリンに限らず他の演奏では聞けません
彼は天才が故に悲惨な人生に巻き込まれてしまいます。あまりに悲しくて私にその成り行きはかけません。興味のある方はYouTebeで見てください。
彼はあまりにヴァイオリンを知りすぎていたこと、そして彼が日本語喋る人間だったことから、多くの嫉妬に囲まれたのかもしれません、そのために悲しい人生を送らざるを得なかったのです。
こう言う演奏家は一人いてくれればいい、そんな思いでいつも彼のヴァイオリンから生まれる音楽を聴いて、とんでもない世界に引き込まれています。
渡辺茂夫で検索するといくつかの音源が聴けます。聞いて驚かないでください。