ポリーニの音

2024年4月2日

音が立って歩いている。

これは先日亡くなられたイタリアのピアニスト、ポリーニの演奏を五十年前に聞いた時の゙印象です。

2つの練習曲集の録音のはじめの曲がレコードから聞こえてきた時の驚きは、いまだかつて聞いたことのない音でした。立って、歩いているのです。そう言い表すしかない完璧さがあたったのです。ポリーニはその音たちをじっと見つめているようでした。

おそらく多くの演奏家もそうしているのだと思うのですが、ポリーニは音を信じ切っているので音は自由に歩き回ることができます。ところが、大抵の演奏家は立って歩いている音たちに手を加えてしまうのでしょう、ポリーニに聞くような純粋で透明な自由な世界が作れないのです。

余談ですが、ウィーンのクラッシク音楽の聴衆は外国の演奏家に辛口の批評をすることで有名ですが、ポリーニは五十年の間ウィーン人に愛された稀有な外国人ピアニストだったと、ウィーンに住んでいる知り合いが話してくれました。

ライアーはピアノとずいぶん違うものです。グリッサンドで弦の上をすべらせて音を出すだけで聞く人を魅了してしまいます。日本の人たちに愛されているタオライアーの音たちもよく似ています。とは言え所詮音の連続であるので、立って歩く音の世界の住人で、演奏する人たちから静かに見られていたいと願っているのだと思います。

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