日曜版 5 自然界の秩序
今ドイツは初夏に移行して木々の緑が出そろい色とりどりの花が咲き乱れ、植物の世界はとてもお洒落に装っています。特に菜の花が盛りで、鮮やかな黄色が太陽の光に照らされて輝いています。例年ですと五月の初めの花の饗宴がすでにやってきています。
今年は冬がありませんでした。雪はほとんど降らず、降っても積ることはなく、氷点下になることもなく、子どもたちの楽しみにしている野外アイススケートは池が凍らずに一度も楽しめなかったのです。氷点下十度を超す日が三日続くと、相当大きな池でも十センチ以上の氷が張ります。市の公の機関は、何かがあった時の責任回避のため、そこでスケートをすることを公認していませんが、何百年も続いた民族の伝統ですから、親御さんもおじいちゃんもおばあちゃんも当たり前のこととして子どもたちが池に張った氷の上でスケートをすることを公認しています。
わが家の池も一度も凍らずに春を迎えました。そのため池の金魚はサギに食べられてしまったみたいなのです。今まで十年の間大きな被害には合わなかったので三十から四十匹は泳いでいたのですが、一時は全く姿を消してしまって、全滅だと諦めたものでした。ところが最近になって葦の根っこの間から、サギに食べられずに生き残った金魚が姿を見せる様になって、今のところ五匹は確認できています。生き残り組は相当ショックだったのでしょう、今でもびくびく泳いでいます。人の気配がするとサギが来たとでも思うのか大急ぎで根っこに隠れてしまいます。
気が付くとオタマジャクシが何百と泳いでいるのです。小さな尻尾を激しく振りながら泳ぐさまは本当に楽譜の様で、音符をオタマジャクシとはよく言ったものです。池が作られて以来のことでオタマジャクシでしばし話しが盛り上がりました。カエルは春のお客さんで、鳴き声だけでなく池の中にいる姿を見たこともあります。一匹だけでしたが、毎年春になると池に来てしばらくいていなくなるのですが、やはり産卵に来ていたのです。しかし今までは産卵した卵は金魚が全部食べてしまって一度もオタマジャクシまで育つことはありませんでした。生き残った金魚たちは長い間葦の根っこに隠れてじっとしていましたから、卵を食べに出て行かなかったので、オタマジャクシに孵ったのです。しばらくすると何百というカエルが池の周りを飛び回る様になるでしょう。
しかしわが家にはいろいろな鳥がやって来ます。その中には「のすり」もいます。他にもカエルが好物の鳥がきっといるので彼らの格好の餌になってしまうでしょう。自然界には私たちが想像もできない程複雑な秩序がある様です。今年の池は金魚の数が大幅に減ったため藻がいつもより多く少し野生みを帯びています。そんな変化をすぐ察するのは空を飛んでいる鳥です。鴨のつがいがやって来ました。まだ何が起こるか予想もできません。人間は深々とした自然からすれば浅はかなもので、自分で理解できた秩序を自然界に押し付けて、自然保護といいながら自然を大事にしていると錯覚しているのかも知れません。