わがライアーの音 すなわち心の力 その2

2012年3月16日

三枚目の「心のゆめ」から始めます。

このアルバムは録音前から新規一転という気持ちが働いていました。

一枚目、二枚目と経験をしたものが試される思いでした。

たっぷり反省して新しい境地に向かいました。

 

始めの曲はバッハの無伴奏チェロ組曲一番からプレリュードです。

ト長調からニ長調に移しました。

チェロに耳が慣れている方には低いと感じられるかもしれません。

私個人としては転調したことで気になるものはありませんでした。

テンポは勿論チェロよりずっとゆっくりです。

この曲で私の好きな演奏はカザルス、デュプレ、マイナルディーです。

特にマイナルディーの演奏はチェロとしては限界と思えるゆっくりのテンポです。

ゆっくりだからいいというわけではありません。

質の伴っていないゆっくりは間延びがします。

ゆっくりでも、早くでも、大切なのは一つ一つの音が垂直に立っているということです。

ライアーに限らずメロディーを弾く時、流れるようにと気を遣いすぎてしまいます。

そこから生じる横倒しにならないように気を付けました。

音がレガートにつながることは大事です。

しかし音同士が、まるで将棋倒しの駒のように横倒しなってしまうのはいただけません。

音が立つ、これは音を曖昧に弾かないということです。

一つ一つの音をしっかり咀嚼することから、音は垂直になります。

さて、曲を見ると、曲の始めは、休符です。

始めっから休みがあるのは尋常ではないはずです。

仕事に入る前に先ず休むようなものですから、どうするか悩みました。

心して始めよ、という声がした様な気がします。

この曲を勢いに任せて弾くことは極力避けました。

勢いの中にはエモーションが入り込みます。

エモーショナルなものではないところに目標を起きました。

だからといって無表情になってもまずいわけですから、そこにも注意しました。

思いついたのは非エモーショナルではなく、無エモーショナルです。

語呂合わせの様なものと笑われてしまうかもしれませんが自分では納得しました。

無エモーショナルによって心の中の感情を浮き彫りにしたかったのです。

感情は衝動的でもあり、冷静でもありという両面を持っています。

そのバランスの中に上等な感情が宿すと考えたのです。

心を落ち着かせ静かに始めの音を待ちます。

録音室のガラス越しの録音組の体制が整ってGoが出た後も瞑想していました。

始めの音がなかなか決まらずにいました。

カザルスがそういうところでうなり声をあげるのがよく解りました。

曲は二つのお話しからなっています。

始めの部分は、のびやかに、素直に言いたいことをお話ししています。

時々眉間に皺をよせたりしますが、全体は屈託がなく、前を向いています。

後半の部分はまるで夢か思い出を語るようです。

心の深いところからいろいろな映像を引き出してきます。

実に巧みにきめ細かい音の繋がりが思い出を浮き彫りにします。

一つ一つの音となった映像を大切に弾きました。

大切にというのは曖昧ないい方です。

夢の中から浮かんでくる様にです。

存在感を持ちながら無重力という風にです。

一つ一つの思い出が光となることを願いました。

最後は夢から覚めて白日のもとに帰って行くかの様です。

ここも劇的にということではなく、必然という流れを心の隅に意識していました。

 

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