わがライアーの音 背筋からの力
光のゆめの二番目の曲はサラバンドです。
この曲も無伴奏チェロ組曲からでした。今度は六番のニ長調からです。転調なしでそのまま演奏しています。
バッハのこの組曲には愛着があります。
その昔、ギターをたしなんでいた頃、ギターのために編曲されたこの組曲の胸を借りて練習していたからです。
サラバンドは当時スペインで好んで踊られたものだと聞いています。
土着的なものと貴族的なものが融合しているものです。俗性と貴族性が同居しているわけです。
初めてこの曲が踊れているのを見た時、スペイン人のプライドとも言える姿勢を背中、特に背筋に感じました。
まっすぐに伸びた背筋にサラバンドの全てがあります。
この曲だけでなく、サラバンドの始まりは決まって背筋が伸びる様な音です。
まっすぐに立っていて、ゆるぎない威厳を感じます。ですからしっかりと指で音を捉えます。
曖昧な始まり方では、この曲に負けてしまいます。土着性があり大地にしっかりと足がついています。
しかし貴族の踊りにまで洗練されますからそこを外すと品のないものになりますから内面の背筋も伸ばします。
そんな準備をしながらこの曲を弾いた訳ですが、テンポの取り方に苦労しました。
録音の時にはぎりぎりのゆっくりテンポでも弾いてみました。
これはこれで味がありますがすこしばかり重たい印象です。録音されているものより一分以上も長くなっています。
六番目は二長調です。二長調ですから軽みが欲しく、仕切り直してサラバンドの踊りをイメージしながら弾きました。
後半部の真ん中あたりから六度の重音が登場します。
二つの音をバランスよくライアーで弾く訳ですが、二つの音を一つづつしっかりと弾かないと音にむらが生じます。
これは聞いている人がイライラしてしまいます。
相当の覚悟で指を指以上のものにしなければなりません。
どういうことかと言うと、指というよりも腕の延長にあるものと言ったらいいかもしれません。
そうしないと指で弦をひっかくようになってしまい、音に落ち着きがなくなってしまいます。
夢の中のサラバンドということも考えました。
光一杯の夢の中ですから重力がないということで、無重力を感じさせるような演奏にしたかったのです。
うまくいったかどうかは、聞かれたかたに判断していただくしかありません。