ゲルトナーライアーの秘密 : 誕生

2014年11月30日

ライアーという言葉は古代ギリシャにすでに在った言葉で3000年の歴史があります。アポロの竪琴としてギリシャ神話に登場します。しかし私たちが今日ライアーと呼んでいる楽器は20世紀に生まれた100年にも満たない若い竪琴のことです。厳密に言うと、大正15年の10月に第一号がドイツのボーデン湖のほとりのコンスタンツで発売されました。

二つのライアーは名称のほかにともに竪琴ですから、弦楽器という共通項はあるにしても、基本的には異なる楽器と見るべきものです。

 

この20世紀に生まれた新生ライアーについてお話しします。

こライアーについて語る時にいつも二人の人物が登場します。スイスのバーゼル郊外のアルレスハイムにあるゾンネンホーフという障害者施設で音楽の先生をしていたエドモント・プラハトと彫刻家のローター・ゲルトナーです。

さてライアーの誕生の近辺です。

二人はそもそも親しい間柄で、二人してシュタイナーの講演会にしばしば出かけています。その時点では二人はまだライアーという接点を持たない単なる親しい友達に過ぎませんでした。二人の青年は講演会でシュタイナーからそれまで聞くことができなかった話しを聞いては、熱心に、霊的世界と地上的物質世界をどの様に結び付けられるのかと話し合っていたそうです。

このライアーが生まれるにあたってちょっとしたシュタイナーの助言があったと言われています。

子どもとオイリュトミーをする際には、ピアノの様な大がかりなものではなく、古代ギリシャのアポロが持っていたライアーの様な繊細な楽器が相応しいとシュタイナーから薦められたのは、音楽教師のエドモント・プラハトでした。彼はシュタイナーの言葉に刺激され何度もスケッチを繰り返しながらあるアイデアに到達します。そしてそれをバーゼルのヴァイオリン制作者の所に以って行きそこでライアーの制作が始まりました。画期的な瞬間と言っていいと思います。とは言っても試行錯誤の連続だった様です。そうした中でなんとか試作品のライアーが出来上がったのですが、それはプラハトにとって満足のゆくものではありませんでした。そうしたいきさつでバーゼルで生まれた試作品のライアーはそのまま埋もれてしまい日の目を見ることなく消え去ってしまいました。

 

失意に暮れるエドモンド・プラハトはそのことを友人である彫刻家のローター・ゲルトナーに話します。彫刻家に楽器の話しをしてもしょうがないのでしょうが、ローター・ゲルトナーはその話を真摯に受け止め、自分にできることなら協力しようとプラハトを励ましたそうです。

こうして二人の共同作業が始まります。ローター・ゲルトナーはプラハトの描いたスケッチを見せられ、何故バーゼルのヴァイオリン制作者のところでライアー制作が上手くゆかなかったのか理由を探します。仕事がら木のことを知りつくしたローター・ゲルトナーですが、楽器制作に関しての経験は全くありません。しかも音楽家ではないので楽器というイメージがなかなか掴めなかったようです。ローター・ゲルトナーにとって大変な試練です。前人未踏の境地への旅立ちです。

 

ここで二つのことに注目してみたいのです。

一つは楽器制作者が何故ライアーを作り得なかったのかということです。資料が残っていないのでここからは私の憶測になりますが、こんな風に考えてみてはどうでしょうか。ヴァイオリンを作ることとライアーをつくるということの間にはずれがあるはずです。このずれが致命的だったのではないかと思うのです。プラハトが考案したライアーには旧来の楽器というイメージでは整理できないものがあったのかもしれません。

二つ目はローター・ゲルトナーが果たした偉業です。なぜ音楽にも楽器制作にも今まで全く縁のない、木を素材にして彫刻活動をしていたローター・ゲルトナーによって後世にまで残るライアーが作られたのかということです。

私には二つ目のことがとても気になります。つまり私たちが今日ライアーと呼んでいる楽器には、それまでの楽器作りとは違う取り組み方が必要だったのかもしれません。ライアーに相応しい精神が宿っているのだということです。表面的に見れば、楽器作りの素人によって後世に弾き継がれるライアーは誕生したのです。

しかし素人とは言っても、勘違いしないでください。この素人と映るものの正体は、実は天才という別名を持っています。私たちの呼んでいるゲルトナーライアーは、ローター・ゲルトナーという天才によって生まれたということです。素人であるがゆえに天才でありえた一人の青年によって作られたのがゲルトナーライアーなのです。そして更に、この楽器はそれまでの楽器という概念から外れた全く新しい楽器の誕生でもあったのです。

20世紀の新生ライアーはローター・ゲルトナーの手になるゲルトナーライアーによって始まったのです。

                                                                   続く

 

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