美しい日本。雪と紅葉の話。

2021年4月8日

日本に簡単に飛んでゆけない今、日本への思いが増幅します。特に最近は日本各地を講演会という形で訪れた三十年を振り返っていました。

外国に移住した人間には、故郷への想いが何十倍も強くなります。ドイツではアメリカに移住したドイツ人たちはドイツに居るドイツ人以上にドイツ的に生活しているといいます。特に民族特有の生活スタイルには固執しているようです。

ドイツにもう四十四年住んでいると、日本にずっといる日本人とは違った日本人になってしまいます。だからと言って、もちろん日本への秘めた憧れは心の中にあっても、私の場合はより日本的になったというのとは違うようです。日本の生活スタイルにこだわることもあまりないようです。

 

今走馬灯のように日本各地で目にした景色が浮かんできます。人間は死ぬ時に人生を走馬灯のように逆行するといいますが、私の走馬灯は逆行していないので、まだ生きていられそうです。

ここ二、三日急に北から寒波が押し寄せ、雪景色に変わりました。せっかく咲いた果物の木の花が雪に埋もれてしまっているのを見るにつけ、農家さんたちは今年もまた大変な被害を被ってしまうのかなぁ、と気になります。

黄色に咲き誇ったレンギョウが雪を被っているのはサプライズでした。それを見ていて思い出した景色があります。南北海道でのことです。露天風呂で紅葉に雪が混じっている景色を思い出していました。今まで体験した露天風呂の中で一番寒い露天風呂でしたが、思い出の中ではとてもフレッシュな印象として残っています。雪混じりの紅葉が湯船からの湯気の中で揺れていました。

十和田で講演会があったときに、青森市からきてくださった方に誘われて、秋の奥入瀬を歩きました。この世の景色とは思えない絶景でした。「なんでこんなに綺麗なんだ」と以下言いようがありません。奥入瀬に入る前に車から見た八甲田山の紅葉はこれまた見事で、しかも薄っすらと雪を被っていて、それが真っ青な空にくっきりと浮かんで見えた時は、車を運転してくださっている方に「こういう景色をどう描写したらいいのでしょう」と思わず聞いてしまいました。彼の返事はそっけなく「そんなに綺麗ですか」というのもコントラストがあって印象的でした。

紅葉の話が出たついでに紅葉が綺麗なところをもう一つ。弘前城跡の桜の紅葉は、赤い色が腐ってしまうのではないかと思うくらいの深々とした赤でした。色が腐るのではないかという体験は初めてでした。京都や奈良で見たもみじの紅葉は息を呑むほどの美しさです。特に私は錦の時の緑、黄色、朱色、赤が調和した美しさが好きです。その紅葉が紅葉の横綱だとして、弘前の桜の紅葉はもう一人の横綱です。赤がこんなに深くなるのを目にしたのは初めてでした。深紅という言葉がありますが、絵の具の深紅ではなく、生きた深紅でした。あとん何日かするとこの深紅が枯葉となってしまうのかと思つた時、自然の薄情さを恨んだ記憶があります。

 

春の、桜の季節に紅葉の話などすると季節音痴と言われてしまいそうですが、庭のレンギョウの黄色に白い雪の帽子が印象的で、それに釣られて紅葉と雪の景色を綴ってしまいました。

 

 

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