ちゃんとしたもの再考

2022年11月10日

ちゃんとした音楽の話はその後興味深い反響があって、再度「ちゃんと」に登場してもらうことにしました。

あのブログを書いた後に思い出したことがあります。もう三十年も前のことですが、私が日本で講演を始めた頃に「仲さんもちゃんとシュタイナー勉強すればいいのに」とドイツでシュタイナーを勉強して帰ってこられ、日本で精力的に活動されていた方から言われたことです。私はドイツでの教育会議で講演する時には、一般の人を相手にした講演をさせられていましたから、シュタイナーの専門用語はご法度だったので、シュタイナーが言いたいことを普通の言葉で言えるように訓練した結果、シュタイナー用語というのを使わないで講演できるようになったのです。エーテル体だとか、アストラル体とかいう言葉はそこではタブーでしたから、その方は私の講演を聞かれて物足りなかったのだと思います。

三十年経っても未だ「ちゃんとしたシュタイナーの話」はできてないです。

それにしてもちゃんとというのは奥が深いものだと頂いたメールやコメントから感じていました。ある先生は子どもには「ちゃんと」を禁句にしているということでした。ちゃんと座って食べなさいとか、ちゃんと人の話を聞きなさいとか、ちゃんと歩きなさいなどです。これらは、何を伝えたいのかが曖昧だということから禁句なのだそうです。私は先生の「上から目線」を感じます。

英語では決め手になるような言い回しがなく、ケースバイケースで色々と工夫しなければなりません。ではドイツ語ではどういうふうにいうのだろうかと調べていたら、よく似た言い方があるのにびっくりしました。Wie es sich gehört、「本来あるべ姿で」という感じです。「ちゃんと部屋を掃除しなさい」というのは「本来部屋があるべく整理整頓された状態」にしろということです。「ちゃんと聞きなさい」というのは砕いていうと「本来聞くという行為が果たすべ姿で」ということでしょうか。よくよく見ると横柄な押し付けです。気持ち悪いほどに上から目線です。「ちゃんと・・・しなさい」と聞くと背筋が不必要にピンと伸び緊張します。なるほどバッハ、ベートーヴェン、ブラームスを産んだドイツ好みです。

ではちゃんとの反対は何だろうというと、「水面に書いた図形」のようなものです。四角い部屋を丸く掃くのも似たり寄ったりです。私は個人的に鴨長明の方上記のくだり「行く川の流れは絶えずして、しかも元の水にあらず」を連想します。川の水に「ちゃんと流れろ」と言ってもしょうがないです。でも大工さんや、指物師の人にはちゃんと作ってもらいたいものです。

ちゃんと生きる様に見える人からお食事に誘われてもきっと断るでしょう。ちゃんと食べないと怒られそうですから。

 

コメントをどうぞ