上品さ
音楽を聴いていて、何が一番気になるかというと演奏の上品さです。気品です。一般にいう演名曲とか名演奏と言う評価はほとんど興味がありません。それと、いい曲を選ぶよりもいい演奏の方をまずは取ります。と言うのはいい曲でも演奏が悪いと台無しですから。演奏者が演奏している音楽を深く理解している時が一番気持ちがよく、上手な演奏はかえって疲れます。実は、上手と言うのは技術的ななことですから大したことではないのです。それは曲芸で、アクロバットで、奇を衒ったもので音楽とは関係がないものだからです。ですから最後は上品さが決め手になります。
上品な演奏の決め手となるのは繰り返し何回も聞きたくなると言うことです。上手な演奏は一回聞けば充分です。もちろん上手な演奏で、私がいう上品な演奏もあります。
何が上品さを作っているのは何かと聞かれると思うので、こちらから先手を打っておくと、何が上品さを生み出すのかは分かりません。例えば謙虚さ、無私無欲かもしれないし、内面的な静けさかもしれないし、落ち着きとも言えるし、演奏する作品への畏敬の念かもしれないし、演奏者がその曲を心から好きな場合などと色々ありそうですが、あまり言葉にしない方がいいようです。折角の上品さが色褪せたものになってしまいます。
気品は何も音楽だけでなく、全てのものに備わっているもので、芸術作品、職人さんの工芸品、大工さんの仕事、左官屋さんから芸人さんのお笑いまで、人生を取り巻いている仕事と作品の全てに備わっているのです。この気品無くしては、つまらない、退屈な、嫌味なものになってしまいます。私は伝統的なもの、伝統芸術に不思議な力が宿っていると思ってみていますがそれらを支えてきたのはこの気品に違いありません。何年もの長い間多くの人を魅了するというのは特別な力です。温故知新、古きを訪ねて新しきを知る、と言うのはその点から見て言われているのでしょう。古ければいいのではなく、長い年月を生き延びてきた力のことです。