街中で、電車の中で。知らない人が知っている人に見える
雑踏の中とか電車の中で見ず知らずの人に「この人知っている」と釘付けになるとがたまにあります。驚くなかれ確信に近いものだったりするんです。この感触、どのように説明したらいいのでしょうか。
「他人のソラニ」なんて生ぬるいものではなく、「もしかしたら知っている人かもしれない」とか「どこかで会ったことがある様な気がする」というあやふやな、迷いのある感触でもなく、ここで「知っている」と断言できるのは、相当の確信なのです。その人は直球でこっちに向かってきます。しかも豪速球です。絶対に知っているんです。
この確信は初恋の時に襲われた感触と同じではないかと思います。本当に一目惚れそのものの感触です。一目惚れから初恋になった時のことを思い出すと、今まで見ず知らずの人の群れの中に、突然一人の人が現れるのです。気になって仕方がない人が現れるのです。ほんの瞬間の出来事ですが、その後はその人が自分の方を向いているかどうかが気になって仕方がないのです。しかもその人の存在は凄まじい吸引力です。この力には本人はもとよりですが相手もきっと驚いているはずです。相手方もきっと「知っている」と言う手応えは感じているはずです。
それは大きく分ければ再会なのかもしれません。再会、つまり再び出会えるというのは何はともあれ喜びです。しかも相当純度の高い喜びに数えられるものです。確信として未知の人に「知っている」と感じるのも再会の様なもので、同じように嬉しいのです。
しかしこの確信を裏付けるものがなんなのかと聞かれると何もないのです。どこで知っていたのかなんて証明できないのです。不思議です。全く根拠のないのに、絶対の確信なのですから。ここで前世のことを持ち出したくなる人がいるのでしょうが、気持ちはわからないでもないですが、それはひとまず置いておこうと思います。
私は学生の時に栃木の牧場でアルバイトをしていたのですが、牛同士、馬同士の間でも、私たちが言う一目惚れ、恋心の様なものがあることを知りました。一頭の雄馬が、ある雌馬を見ると恥ずかしそうな仕草をするのです。一回きりではなく何度も似た状況を目撃しました。これはまさに一目惚れと言える衝撃的な出来事です。あるいは「知っている」の感覚です。
動物にも人間に似た恋心があるのはなんだか嬉しいです。もしかしたら植物にもあるのかもしれません。人工的に受粉したものより自然受粉の方が実る確率が高いのだそうです。