声の発見 その二
声は自分と深く結び付いている、このことはすぐに解っていただけると思います。
しっかりメモってください。
でもそれだけでは物事は何も進展しません。
お医者さんに行って診察してもらってあなたは癌です、と言われて「はいそうですか」で帰ってくる様なものです。
声と自分とがどうかかわっているのかというところに焦点を当てて、そこでどういうことが起こっているのかを見なければなりません。見えそうで見えないものかもしれませんが付き合ってください。
では見てみましょう。
声は産声から始まります。
私たちの自分への意識も生まれた時から始まります。
この二つは並行関係で、並行関係を保ちながら成長して行きます。
声が成長すると言うのは、言い方としてはあまり耳にしない言い方です。
声の成長を見ると二通りあって、一つは肉体的なもの、もう一つは精神的なものです。
肉体的には思春期の男の子の声変わりが特徴的です。早い子で小学生の高学年、遅い子で中学三年頃までに男性には声変わりがあります。その時期を変声期と言います。肉体的にも変化します。性的特徴が肉体的に顕著になります。
男性と女性のその時期の変化の仕方に注目してみると、男性は声にはっきり現れて、女性は肉体的にはっきりと変化が現れます。男性の変化は視覚的ものではなく、女性の変化は視覚的なところにあるとも言えます。
変声期と言うのは男性特有のものと考えがちですが、女性にも見られます。ただ男の子に見られる様に、声が一オクターブ下がるということではないので、気がつかないことがほとんどです。女性の声変わりとして、少女合唱団の女の子たちの声と、女性合唱団の声に注目したいと思います。女性の声とはいえ、その間には歴然とした違いがあります。女性の体になった女の子たちからは今までない太めの、若干重い声が響き始めます。音の高さもこころもち低くなるかもしれません。
声の成長のもう一つは、精神的なものです。精神的なものと言う中に、自分への意識が含まれています。精神的な声変わりが起こるのは、自分が自分を客観視できるようになった時です。
自分への意識は生まれた時からあります。初期の自分への意識を見るとその時点では周囲に依存しています。生れてすぐは全面的に母親、お母さんに依存しています。肉体的に見ても、おっぱいをもらったり、おむつを取り替えてもらったりは全てお母さんがやってくれます。精神的にもお母さんに依存しています。お母さんにしっかりと抱きしめられている時に、赤ちゃんはお母さんに抱かれた自分を(無意識にですが)感じています。お母さんがしっかりと赤ちゃんを抱き締めた時、赤ちゃんは自分という存在をしっかりと確認しているのです。もちろん赤ちゃんはそのことを口にしませんし、大人になってからもそのことを思いだすことはありませんが、
「その時、確かに、お母さんに、しっかり抱かれながら、赤ちゃんは、自分という存在を、確認しているのです。そして、そこで人間は、今生を生きる勇気をもらっているのです」
存在という難しい言葉は勇気のことです。
声は肉体と精神の両方から支えられているのです。
肉体的なところでもう一つ補うと、体質と言うことです。体質は持って生まれてきていますから、自分で好きなように変えられません。この体質が結構声に影響しています。ですから親子や兄弟姉妹の間によく似た声が見られるのです。
声の酷似は電話のときが一番はっきり聞かれます。器械音は、特にデジタル化されてからの電話の声は大雑把なものになっていますからよけいです。それよりも大きいのは、本人を目の前にしていないと言うことです。本人がそこに居ればその人の雰囲気、最近は風とかオーラと言うのでしょうか、それが印象として伝わって来て声に混ざりますから、いつも電話口で間違える二人がならでいても、案外似ているなんて思わないものなのです。
こんなことを書いているのは、声をよくしたいと思っている人に警告を発したいからです。その人たちは発声練習の様なものにすぐ目が行き、日夜発声練習をします。ところが声はただ肉体的訓練でよくなるものではありません。声は肉体と精神の両輪から成っているのです。ですから発声練習だけで声をよくすることはできないことをはっきりさせておきたかったからです。
声の精神性などという読者に逃げられてしまいそうですが、しょうが無いです、こう言わざるを得ないもの、こう言わせるものが声にはあるからです。
どんな人も人生では苦労をします。苦労すると言うのは暗いところを通ることです。暗いと言うのは黒のことです。人生は真っ黒なところを一度は通るものです。もちろん何度も通り人だっています。
その黒、苦労が声に影響します。声は深くなります。ここで声に見られる変化を、声がよくなるとは言いたくないのです。声のことを言うと、ほとんどの人がすぐに「いい声」にこだわりますが、いわゆる「いい声」なんて大したことではないのです。声は深くなることで、声に魅力出て来るのです。
それが声の響きを生んでいるのです。