思春期 その一
思春期をどう過ごすのが理想的なのか考えてみましょう。
14歳辺りで成長する子どもの中に、今までは全く異質のものが目覚めます。多くの人がこの時期に大きな変化を経験したのではないかと思います。私も丁度その時に私の中の時限爆弾が爆発しました。
自分を自分中心に感しられる様になるのです。エゴの誕生です。人間はその日から正真正銘のエゴイストになるのです。そして自分以外のことが今までとは違ったものとして見え始めるのです。
思春期の「思」は考え方でしよう。「春」は性的な目覚めです。考え方にも体にも大きな変化が起こっています。
今までの子どもであることに別れを告げます。子どもというのは、自分と自分以外との間の境界線が水の上に線を引いた様にぼんやりとしていて、曖昧なものなのです。思春期になるとその線が地面に線を引いた様にはっきりとして来るのです。宗教的にもこの時期に一人前になった確認をする儀式が見られます。日本の元服も思春期を祝う儀式だったと考えていいものでしょう。
シュタイナーも思春期のことをErdenreifといっています。この言葉は地上的成熟と直訳しても訳が解らないものです。人生を考え始める時期に来た、そうすることができる成長期に入ったと言う風に解釈した方が解りやすいと思います。あるいは先ほどの地面の上に線を引く様に自分と自分以外の境界線がはっきりしてくると考えることもできます。
体の変化としては、女性は生理か始まり、男性は夢精が起こります。生殖能力が体に備わります。子孫を残せる、子孫を残す義務があると解釈してはどうでしょう。自分が親になれるのだと言うことから、自分は親から生まれたのだと言うことが同時に見えて来ます。性の基本です。余談ですが、ここに性教育の要があれば性教育は今の様に破廉恥なものにならないと思います。
生殖能力はセックスへの目覚めで、セックスへの目覚めは異性への目覚めです。男、女というのは同じ人間なのに全く違う生きものです。それまでにも男の子、女の子という風に分けられていましたが、それは外から便宜上分けられていたものでしたが、思春期以降は、自分から積極的に違いを意識し、自分とまったく異質のものに関心が目覚めるのです。男性からすれば女性は未知の世界であり、女性にとっては男性が全然解らない存在です。それなりに、それだからこそお互いに引きあうものを感じるのです。そしてそこに好きな人が現れ、恋する気持ちに悩まされることになります。これは文学の永遠のテーマです。
性的な違いからの別の世界の出現とともに、今まで自分が生きてきた環境、社会に対しても新しい見方が生まれ、社会的な関心が生まれます。社会と自分という関係です。それまでは社会の中に生きていただけで、社会を自分と対立するものとは見ていなかったのです。社会の不条理に怒りを覚える子どももいます。社会の中で役に立ちたいと言う気持ちを持つ子どももいます。いずれにしろ社会に対して今までの共存のあり方から脱皮する時期なのです。子どの頃は、将来何になりたいと言うことで、自分と社会とを結び付けていましたが、今思春期以降は人生論が展開し始めます。これは哲学の永遠のテーマです。
思春期を外から眺めればこんな変化が成長の中に見られると言うことです。
しかしこの変化をどう受け止めるのか、教育的にどのうよ指導すべきなのかというのは近年になってから浮かび上がってきたものです。
思春期が厄介なテーマであることは教育に携わる人はよくわきまえています。
結論めいたことを先に言ってしまうと、思春期以降は「教える教育」から「気付かせる教育」、「発見を促す教育」に変わらないと、思春期は教育にとって何時までも目の上のタンコブてあり続けることでしよう。
パナソニックの前身であるナショナルこと松下電気の創設者松下幸之助さんは、尋常小学校を出てすぐ丁稚奉公に出ました。当時の尋常小学校は今の五年生まででしたから、12歳ですでに社会に出て働いていたことになります。松下さんの思春期はどの様な形で行われたのでしようか。教えてもらって電気のソケットを作ったのではなく、彼の発見からでした。
松下さんのことは当時の社会からすると例外ではなく、特別な人だけが上の学校に進み勉学を収める時代でしたからほとんどの人が12歳で社会人だったのです。思春期を学校で送らなかったから、その時期に受けるべき指導を受けていないから、当時の人たちは人間として充分な教育を受けていないのだ、この様には言えないとみんな知っています。
今の日本は三分の二の人が短大以上の最終学歴を持つ社会です。小学校も卒業しないうちから社会に子どもを放り出すなんて、義務教育が中学三年までとされている社会では 先ずは法律が許さないでしょう。しかし法律を知らない人ですら、そんなことをしたら人道的に問題があると感じているはずです。学校でしっかり思春期に相応しいことを勉強することが大事なのだ、この様には言えないと、やはりみんな知っています。
思春期という観点から見ると面白いことがいろいろ見えてきそうです。