ロザリン・トゥーレックのピアノは・・・

2015年5月5日

ロザリン・トゥーレックのピアノの音に触れて頂きたいと思ってブログに向かっています。

ピアノが作り出す音楽がこれ程深く語り掛けるのを体験することは稀です。

詩人が言葉に命を預けるように彼女は弾くので、演奏を聞きながら頷いてしまうのです。

まるで和歌を読んでいる時のような緊張があって、弾き終えた音と次に生まれる音の間に立たされながら音楽を聞きます。

すべての音が際立っていて、時間の中を流れる音楽ですが、まるで人間がそこに立っているかの様です。

シューベルトの楽興の時の二番を聞きました。バッハのゴールドベルク変奏曲も聞きました。1957年の録音と1995年の録音です。ブゾーニが編曲したシャコンヌも聞きました。平均率も聞きました。なにを聞いても彼女の演奏から聞き手は直接音楽に向かわされてしまいます。これらはみんなyou tubeで聞けます。Rosalyn Tureckで検索すると日本以外のものが聞けます。

ロザリン・トゥーレック(1914-2004)はグレン・グールドが唯一影響を受けた人と言われています。しかし表面的な見方は禁物です。影響は形ではなく直感で受けているものです。直感で受けた影響が必ずしも形として見えることは稀なのです。

とはいえ、ちょっとだけグールドと比べてみると、1955年にグールドが初めて録音したゴールドベルク変奏曲と辞世となった1983年の録音の間にはずいぶん違いがあります。グレン・グールドは最後に彼の祈りをこの音楽に込めて録音したのでしょうか、晩年の録音には緊張と安らぎが調和して聞き手を別の世界に連れていきます。演奏している姿にもうかがえます。最後のアリアを弾き終わったグールドは、ピアノに向かって手を合わせ、深々と頭を垂れていました。

ロザリン・トゥーレックの二つの演奏はほとんど同じです。両方とも一時間半かけて演奏しています。この曲で一時間半以上という長さは、驚異的です。もう一つの驚異は一生の間演奏の質が変わらなかったことです。そして更なる驚異は作曲者、作品によって演奏するスタイルを変えない事です。ではみんな同じに聞こえるのかというと、それぞれの曲がその曲にふさわしく演奏されるのですから、不思議以上に驚異です。

ロザリン・トゥーレックのひくシューベルトは衝撃的でした。

シューベルトは限りなく言葉に近い音楽です。ですから音楽的に演奏しただけでは十分ではなく、すぐれたシューベルトの演奏からは言葉が聞こえてくるようになるのです。音楽から変容した言葉です。音楽は、音楽的なものから言葉の領域に達した時、別の次元のものになって、音楽でありながら、音楽的でなくなっていると思っています。

ロザリン・トゥーレックの言葉になった音楽に耳を傾けていると身も心も洗れたような気持ちになります。

バッハの音楽に向かう、高い位の司祭と名付けられたということですが、この方はピアノの聖者のような 人だと、何度思ったことか。

この方の音楽を聞いた後、いままで知らない自分がいるように思ったことがありました。

多くの方に彼女の音楽に接していただきたいと願っています。

 

 

コメントをどうぞ