マイクロフォンの話。私の録音したスタジオではノイマンのマイクでした。
今日はのんびりとマイクロフォンの話をしたいと思います。
私がライアーの録音をする時に使うマイクはドイツのノイマン社のマイクです。ノイマン氏が作った第一号が1928年に作られ、その後改良がされ1935年の製品はいまだに最高高級なコンデンサーマイクとして業界では有名です。私の使用するノイマンは1950年代のものです。
こう書くと年代物のように聞こえます。自動車だったらミュージアムに飾ってあるようなものです。しかしオーディオの世界では1920年代に優れものが作られ、今でもそれを凌駕するものが作られていないともいえる不思議な現象が見られます。
ここにあげたノイマンもその一つですが、アメリカで当時電信電話局のために作られた真空管は今でも最高のものだそうです。
もちろんこれらは今でも手に入る製品だと言う寿命の長さが品質の良さを感じさせます。古くなっていないんです。
マイクの場合、音を拾う感度だけで言うと最近のマイクの方がいいと言う人もいます。ところが、音という音をなんでも拾ってしまうのは当然雑音も拾ってしまうので、却ってマイナスで、数値化される感度だけではマイクの良し悪しは決められないのだそうです。マイクの様々な性能はデーターとして数値に表されます。それは間違ってはいないけれど、参考にする程度のものです。大切なのは中声部の安定した音をしっかり再生することなので、それは数値に表されないものなのです。
ノイマンのマイクは音の解像力が素晴らしく、このマイク二本を天井から吊るしてオーケストラを録音したレコードがディスク大賞を取ったことがあるほどです。普通は十数本のマイクを舞台の至る所に設置して、そこで拾った音をミキシングという装置で混ぜ合わせて人工的に作り出された臨場感で音に仕上げます。ノイマンの二本のマイクからは会場に存在していた実際の臨場感溢れた音が録音ができるので、天井からの二本吊すだけで十分なのです。モノラルの時代はマイクは一つでした。日本はステレオ効果のためです。
私が録音する時は、マイクが目の前に上から降りてきています。ライアーのすぐ上で直接ライアーから出てくる音を直に録音します。楽器から生まれた音をすぐに拾うのです。こうして録音された音は想像以上に深くて、初めて聞いた人は私が録音に際しエコーを入れていると考えたほどです。エコーで作った音は全く別物です。一番の違いはまず音が濁ります。濁っている音は煩くて長く聞いていると耳が疲れますから長くは聞けないものです。ノイマンで録音した音は実に透明です。まるで録音しようとする音の本質を聞き分ける耳を持っているかのようです。
私が録音したスタジオは普段はナレーションの録音が主な仕事です。ノイマンのマイクで録音された声の美しさは格別です。深々しく、しっとりした声で録音できます。解像力の優れたレンズで撮られた写真のように、潤いがあるのです。声の深み、膨らみ、響きの豊かさが全く違うのです。ほぼ100年前に作られたマイクがいまだに世界一というのは信じがたいものですが、残念ながら事実なのです。技術は改良に改良を重ね発展したということになっています。ところが、ノイマンのマイク例が示すように、必ずしもそうとは言い難いものもあるのです。
私がご贔屓にしているYouTuberにこのノイマンのマイクで録音している人がいます。本当に艶々した声がYouTubeから聞こえて来たときはどうしてこの人の声はこんなに綺麗に拾われているのだろうと不思議でしたが、あるとき彼が自分で使っているマイクの種明かしをした時に、ノイマンの真空管のマイクだと聞いて、さもありなんと納得したのです。
もし皆さんの中にYouTuberになろうと考えている人がいたら、ノイマンのマイクで録音することを考えてはいかがですか。値段は少々張りますが絶対におすすめです。