最高の視聴率で魅了したアメリカのテレビドラマ「逃亡者」

2022年12月8日

子どもの頃に見た覚えのあるアメリカのテレビ番組「逃亡者」(60回が前半と後半に分かれて全120回)がYouTubeで見られるのを発見し、しばらくの間はまってしまいました。

当時、1963年、は我が家にはまだテレビがなく、どこかで見せてもらっていました。日本では白黒テレビしかなかったので白黒の印象だったのですが、アメリカではすでにカラーだったのはいささかショックでした。

ストリーはチャールズ・キンブラー博士の逃亡です。博士は妻殺害という濡れ衣を着せられ、無実の罪の裁きを受け、死刑執行のための護送の途中の列車事故に遭遇し、それを機に脱走、そこから、真犯人を探すという逃亡を始めます。毎回基本的には繰り返しのパターンと言っていいのですから、怒られることを覚悟して言わせてもらうと、アメリカ版「水戸黄門」かもしれません。アメリカでも日本でも視聴率の記録を打ち立てた人気番組でした。視聴率からしてもまさに「水戸黄門」です。

キンブラー博士の指名手配写真は全米に配布されていますから、彼が名前を変えてどこに逃れても、指名手配の写真からバレてしまいます。そのため毎回警察に捕まりそうになるのですが、その寸前で博士の無実を信じてくれる市民の手で難を逃れます。しかも庇ってくれる人たちをキンブラー博士は別の形で助けるのですから、善と悪の入り混じった世界観は見事に視聴者の心を掴んで放さなかったに違いありません。あわや捕まって死刑台行きかと思いきや、するりと抜け道が設けられていて、無事真犯人探しの逃亡を続けることになるのです。60年前は子どもでしたからスリルしか楽しんでいなかったのですが、今はアメリカの精神的バックポーンであるピューリタ精神の片鱗を感じることができるのに驚いています。パターンは同じような繰り返しでも、様々なシチュエーションの中で交わされるウィットに富む会話も絶妙で、そこから古きアメリカを堪能しました(吹き替えの日本語が素晴らしい!!)。

最近報道されているアメリカという国の印象は、逃亡者の中の登場人物から聞かれる会話とは雲泥の差がある、冷たいものであることに驚くのです。まだ善なるものへの憧れが息づいていたからかもしれません。ヒューマニズムの温もりを感じるのです。今は目標を失った豊かさが空回りしている様です。

アメリカばかりではなく、今世界を覆っている重い空気の原因はなんなのだろうとよく考えます。その度に、人間の精神力の低下という思いが脳裏を掠めます。社会は経済的に見れば豊かになりました。テレビドラマ「逃亡者」が放映されていた頃のアジア諸国はまだまだ貧しい開発途上国でした。しかし今では立派な先進国の仲間入りを果たし、物価などを見ると日本を遥かに超えた水準です。日本はIT出現を機に経済発展に関しては遅れをとってしまい、今では先進国とは縁遠いい国になってしまいそれを批判し続ける輩が跡を立ちませんが、世界が豊かになったのは経済の分野だけだとは考えないのでしょうか。確かに地球規模でお金持ちになったのでしょうが、どう見ても本当に豊かになったとは思えないのが現状ではないのでしょうか。

昔は良かったなんて言いたいのではないのです。進歩、進化、発展というのが何を意味しているのかは簡単ではないはずです。温故知新(古きを訪ねて新しきを知る)という考え方は忘れられてしまって、今や死語なのかもしれませんが、私たちが失ったものがなんなのか、それを補うものはなんなのか、補いながら新しい出発がどこにあるのかと考えないと、進歩は仮の姿でしかない様に思うのです。

繰り返しますが、私は逃亡者の中の登場人物たちのヒューマニズムを感じさせる会話に魅せられました。そこにある人間味です。現代人の会話は、比較すると用事を足すだけのもののようです。昔で言えば電報の様な簡略された会話です。それは精神力の欠如にもつながるものです。数字で人間が評価される時代を私たちは生きている様です。

コメントをどうぞ